最近、メンタル疾患を抱える社員の増加は大きな問題となっています。
中でも私傷病を理由として、長期的あるいは断続的に欠勤する社員に対する就業規定はどのように定めればよいのでしょうか。
今回は、私傷病休職制度を整備するうえでのポイントをお伝えします。
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私傷病欠勤とは?
私傷病欠勤とは、労働者が業務に関係のない病気やケガにより仕事を継続できなくなった場合に、会社が労働者を一時的に休ませることを指します。
多くの会社では、就業規則において「私傷病休職制度」を設けています。
ここでは、私傷病休職制度の対応方法について詳しく解説します。
私傷病休職制度の対応方法
私傷病休職制度の対応方法についてみていきましょう。
前提として、私傷病休職制度は法律で義務付けられているわけではなく、会社の就業規則で定められます。
そのため、期間や支給すべき手当などは、会社によって対応が異なります。
期間はどのくらい?
私傷病休職制度における休暇期間は、3ヶ月程度~2年程度までと、会社によって大きく差があります。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の2013年11月の調査では、「6か月~1年未満」が22.3%と最も多く、「1年~1年6か月まで」が 17.2%、「3か月~6か月まで」が13.3%、「1年6か月~2年まで」が12.6%となっています(※)。
※参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構『メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査』
また、休暇期間は、雇用形態や勤務年数に応じて就業規則に設定することも可能です。
給付する手当はある?
私傷病欠勤中に給付する手当があるかどうかは、就業規則の内容に左右されます。
就業規則で私傷病休職中になんらかの手当を支給するよう定められている場合は、規定に従い支給が必要となります。
一方、規定に定められていない場合は、支給する必要はありません。
休職者は会社から手当が支給されない場合でも、健康保険から傷病手当金の支給を受けられます。
休職に際する労働者の金銭的な不安は大きいため、積極的に案内しましょう。
メンタルヘルスに対応できる規定の整備が必要
メンタル不調による欠勤に対処するため、欠勤を断続して繰り返す場合は、同一の事由だけではなく、類似の事由でも通算する旨の規定を置くことが必要です。
私傷病休職に関する就業規則を作成する場合の留意点
ストレス社会と呼ばれて久しい現代では、各社においても精神疾患に羅患する社員が増加し、その労務管理判断に悩む場合も多いのではないでしょうか。そもそも労働契約は、労働者が労務を提供し、使用者がこれに対して賃金を支払うことが本質的な関係です。そのため、労働者が精神疾患に羅患し、労務を提供することができなくなった場合には、「普通解雇」せざるを得ないことが原則となります。
しかし、多くの会社では、このような場合に直ちに普通解雇するのではなく、「私傷病休職」という制度を適用し、普通解雇を猶予しているようです。そこで、以下、私傷病休職制度を制定する場合の留意点を説明することにします。私傷病休職制度とは、私傷病に羅患した労働者を就労させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、労働関係を存続させつつ労務への従事を免除ないし禁止する措置を言います。
就業規則で休職制度を設けている企業も多いと思いますが、私傷病休職制度の内容についての法規制はありません。そのため、いかなる要件で私傷病休職制度を適用し、私傷病休職期間が満了した場合にどのような効果を付与するのか、再度の休職を求めるのか等は合理的な内容のものである限り、使用者が決定することができます。
断続的に欠勤する社員への対応
精神疾患の場合、長期的に連続して欠勤するのではなく、断続的に欠勤することも珍しくありません。
そして、使用者としては業務を付与することも難しく、結局軽易な業務を付与することしかできなくなってしまうことも想定されます。このような場合には、むしろ一定期間、社員の労務提供義務を免除し、療養に専念させるために休職を発令することが適切であると考えられます。
しかし、例えば、休職発令の要件として就業規則に「2か月以上連続して欠勤を断続したとき」とあるだけの場合、休職発令の要件を満たすことは容易ではありません。
そこで、次のような規定を定めておくことが考えられます。
「2か月間、欠勤を継続した場合には、休職を発令することができる。この場合、同一または類似の事由により欠勤した場合の欠勤期間は前後通算する」
精神疾患ではさまざまな診断名がつけられることがあり、「同一の事由」と言えるか否かの判断が困難な場合がありますので、「同一の事由」だけではなく「類似の事由」も含めておくことが重要です。
また、欠勤が一定日数に達することを要件とするのではなく、直ちに休職を命ずることができる事由として「その他前各号に準じる事由があり、会社が休職させる必要があると認めたとき」を挙げておくことでも対応は可能です。なお、この対応をするためには、私傷病のために労務の提供ができないことが前提であるということは言うまでもありません。
なお、現在、私傷病休職制度就業規則を制定している会社が、その要件、効果を変更する場合は、就業規則の不利益変更に該当するものと考えられますが、メンタルヘルス不調により欠勤する労働者が増加している現状等を考慮すれば、このような変更を行う必要性は認められるものと考えられます(野村総合研究所事件 平成20・12・19 東京地判参照)。
復職を申し出てきた社員への対応
復職の要件としては、休職事由が消滅したこと、すなわち、休職事由となった私傷病が治癒(寛解)したことが必要であると定めている場合が多いでしょう。
「治癒」したと言えるためには、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したことを要するものと解されます。
しかし、裁判例は、そのような状態になくても、職種限定の有無を問わず、当初は軽易な職務に就かせれば程なく従前の職務を通常の程度に行うことができると予測できる場合には、復職を認めるのが相当としています。(職務限定でない事案として、独立行政法人N事件 平16・3・26 東京地判、職種限定の事案として、カントラ事件 平14・6・19 大阪高判)ので、注意が必要です。
なお、「程なく」とはどの程度の期間かが問題となります。裁判例の中には「直ちに100パーセントの稼働ができなくとも、職務に従事しながら、2,3か月程度の期間を見ることによって完全に復職することが可能であった」と推認して、休職期間満了による退職を無効にしたものがあり(北産機工事件 平成11・9・21 札幌地判)、他方で、当初担当すべき業務量は従前の半分程度で、その期間としては半年程度を要するとの主治医の意見書に対して、「半年という期間は、いかにも長く・・・実質的な休職期間の延長というべき内容」としたものがあります(前記独立行政法人N事件)。
これらの裁判例からすると、概ね2・3ヵ月程度と考えておけばよいと思われます。
まとめ
メンタルヘルス対応は、企業における重要事項となっています。就業規則上で定めがなく、復職に対する対応が遅れた場合、企業・社員共に疲弊する要因となります。
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